岩手県立胆沢病院

ダビンチ 内視鏡手術支援ロボット

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当院で行っている

ロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除術(前立腺癌ダビンチ手術)

 

【前立腺癌の手術療法】

前立腺癌では、年齢や他疾患の有無、癌の進行具合等に応じて様々な治療法が選択されます。癌が早期(前立腺の中だけにとどまっている=局所癌。病気B2、stage T2cまで)の場合、手術による治癒(根治)が期待できます。

 前立腺癌手術(前立腺全摘術)は、前立腺とその付属器である精嚢を摘出することによって癌を取り去り、膀胱と尿道を再びつなぎ直す(再吻合)ものです。

 

【新しい前立腺癌手術、ロボット手術】

これまで、前立腺全摘除術は主に開腹手術で施行されていました。開腹手術は、下腹部(へその下方)を縦に切開して行うものです。

これに対し、当院で行っているロボット手術(ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術)は 、「ダビンチSi」という手術システムを使うことから別名「ダビンチ手術」とも呼ばれ、お腹を切り開かずに、ロボットを使って腹腔鏡で前立腺を摘除する方法です。この手術では、腹部6か所に5~12mmの小さな穴をあけ、ここからお腹の中にカメラや手術器具を入れて手術を行いますが、肉眼より鮮明で精細な3次元画像と、人間の手よりも繊細で正確なロボットアームを使っての腹腔鏡下手術が可能です。

 岩手県立胆沢病院では、平成27年6月に手術用ロボット(ダビンチSi)を導入し、同年9月より手術を開始しています。ロボットの操作には熟練をようするため、ダビンチ手術システム開始に必要なトレーニングを全て修了し、製造販売元である米国Intuitive Surgical社による認証ライセンスを受けた医師のみが手術(ロボットの操縦)を行います(当院の手術担当医師は、日本泌尿器科学会および日本泌尿器内視鏡学会の腹腔鏡技術認定、日本内視鏡外科学会の技術認定も取得しています)。

なお、この手術はロボットが勝手に手術を行うのではなく、執刀医がロボットを操縦して手術を行うもので、ロボットは命令に従って補助するだけです。

 

【ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺摘除術の利点】

ロボット手術では、開腹手術に比べて、患者さんの身体的負担の軽減、手術成績(根治性)の向上、合併症の軽減 などの利点が報告されています

□傷が小さく痛みが軽度(痛みは個人差があります)。

□出血量が少ない(開腹手術では輸血することが多いのに対し、確率は5%未満)。

□回復が早い(多くの人が手術翌日に歩行し、水分~食事再開)。

□術後合併症の軽減:条件によっては前立腺周囲を走行する 神経血管束(男性機能や尿道括約筋機能に関連)を温存して手術を行うことがあります。その場合、より精度の高い手術により、開腹手術に比べ、男性機能の保持・回復や術後尿失禁の回復が良好といわれています。

□癌の治療成績:従来の手術と同様~やや良好であると報告されています。

 

 

【手術の方法】

□全身麻酔で行います。

□お腹に5~20mmの穴を6個あけ、ポートという筒を入れます。

□手術中は仰向けより25°~30°頭を低くした状態で行います。

□ポートに手術ロボット(ダビンチSi)をドッキングし、カメラや手術用鉗子などを体内に挿入。ここからはロボットを使って体内で手術が行われます。

□前立腺と膀胱との間を離断。前立腺と直腸の間を剥がし、最後に尿道を切断します。この時、病状や希望によっては勃起神経を温存することが可能です。病状によっては骨盤内のリンパ節郭清も行うことがあります。

□体内でビニール袋に前立腺を収容(後で穴の一つから体外に回収)します。

□膀胱と尿道を吻合し、尿道に管(尿道カテーテル)を入れます。

□体内に溜まる血液や体液を外に出したり、術後の出血の具合を観察するためのドレーンをいう管を体内に留置して、全ての穴を閉じ、手術終了です。

□手術時間は概ね3~4時間程度です(個人差があります)。

□なお、機器(ロボット)の不具合(急に動かなくなる)がまれに起こることが報告されています。麻酔・手術開始前であれば手術を中止・延期しますが、すでに開始している場合は、開腹手術に移行して手術を続行・完遂します。

 

【一般的な術後経過】

□手術終了時、点滴のチューブ、尿道の管(カテーテル)、おなかの管(ドレーン)等が入って病室に戻ってきます。

□手術当日は、翌朝まで安静が必要です。

□翌日にはベッドに座るところからはじめ、歩行訓練も開始となります。

□腸の動き次第で、翌日~2日後から水分摂取や食事を再開します。

□術後数日は感染がなくても発熱がみられることがあります。

□ドレーン、点滴の管は手術後2~3日程度で抜去します(状態により延長)。

□手術後7日目にレントゲン透視で確認し、尿道カテーテルを抜去します。

□大きな問題がなければ手術後8日目以降に退院となります。

□摘出した前立腺は病理検査に提出し、退院後に結果報告があります。

□退院後は1~3か月毎に血液検査でPSAを測定し、再発の有無を観察します。

□上記はあくまで一般的な経過であり、経過には個人差があります。

 例)腸管の動きの回復が遅い場合は食事の開始は遅れます。

    7日後のレントゲン透視検査の結果が思わしくない時は、尿道カテーテル抜去は延期となることがあります。 

 

【合併症】 

1)手術中(術後合併症)

□出血

どんな手術でも共通する合併症ですが、この手術で輸血が必要となる頻度は5%未満と言われています。しかし、予想以上に出血があった場合(1,000ml以上)、輸血が必要となることがあります。

事前に同意書への署名をお願いします。

□直腸などの腸管損傷

前立腺周囲の炎症が強い場合や癌が浸潤している場合、剥離中にまれに直腸などを損傷することがあります。手術中に修復できても、5~7日間の絶飲食と、尿道カテーテルの長期留置(2週間以上)が必要です。

また、目に見えない小さな損傷が術後悪化することもあり、場合によっては追加手術を必要としたり、入院治療が長引くことがあります。

□尿管損傷

前立腺周囲の炎症が強い場合や癌が浸潤している場合、まれに尿管を損傷する場合があります。その場合は、尿管と膀胱を繋ぎ直す、尿管にバイパス用の管を入れる、などの追加の処置が必要となる場合があります。

□ガス塞栓

二酸化炭素が大量に血管の中に入って血の塊などができ肺に血液が回らなくなるもので、まれではありますが危険な合併症です。

□出血や癒着、その他合併症により安全性が確保出来ない場合は、手術中に開腹術へと変更することがあります。

 

2)手術後(術後早期合併症)

□吻合部の尿漏れ

膀胱と尿道吻合部の癒合が遅れる場合、尿が骨盤内に漏れることがあります。その場合は、ドレーンや尿道カテーテルを長めに留置し癒合するのを待ちます。

□皮下気腫

腹腔鏡手術で使用する二酸化炭素が皮膚の下にたまって不快な感じがすることがありますが、害はほとんどなく数日で自然吸収されます。

□深部静脈血栓症による肺梗塞

おもに脚の血管の中で血液が固まり、これが血管の中を流れて肺の血管に詰まって起きることもので、本手術だけではなく長時間の手術では可能性があります。予防のために、手術中および手術後に空気圧を利用した下肢の持続的マッサージなどを行ったり、手術数日後に専門看護師による下肢リンパマッサージを行ったりしますが、術後できるだけ早く歩行していただくことが大切です。

□感染症

術後、細菌によるなんらかの感染症が起こることがあります。創の感染、肺炎などが起こりえます。薬が効きにくい細菌に感染すると創の治りが遅れることがあります。この手術自体は、感染が起こる頻度は低いですが、感染をきたした場合、抗菌薬の使用や処置が必要となります。

□腹膜炎

万が一、腸に損傷があった場合、後で腹膜炎となり再手術が必要になる場合があります。

 

 3)退院後(術後晩期合併症)

尿失禁

手術により、前立腺の構造がなくなり、括約筋(おしっこを止めておく筋肉)の動きが一時的に低下するため、大部分の方が尿もれ(尿失禁)を経験します。一般に手術直後が最も強く、徐々に回復に向かいます。個人差がありますが、1年後までに約90%の方が普通の日常生活ではほとんど漏れない程度に回復します。

勃起障害

前立腺摘除に伴う勃起神経の損傷により起こります。癌の部位が限られ、患者さんに希望がある場合には、なるべく勃起神経を傷つけないように残す勃起神経温存手術が可能ですが、部位によっては癌も残ってしまう可能性がありますので、よく考えて判断する必要があります。勃起神経を残しても必ずしも勃起機能が保たれるとは限らず、年齢や手術前の状態にもよりますが、両側の勃起神経を温存した場合で回復率は40~80%です。また、ホルモン療法や放射線治療法など手術以外の治療法でも少なからず勃起障害は起こります。

□腸閉塞

術後に腸が癒着し、入院や再手術が必要となることがあります。

□吻合部の狭窄

膀胱と尿道の吻合部が、引きつって狭くなり、尿が細く出づらくなることがあります。多くは外来での拡張処置で改善しますが、高度な場合には内視鏡的に広げる必要があります。

□創ヘルニア、鼠径ヘルニア(脱腸)

創の下の筋膜がゆるんで、腸が皮膚のすぐ下に出てくる状態で、再手術が必要となります。

 

4)その他

□万全の注意を払って手術を行いますが、実際の手術では上記以外にも予想し得ない合併症(偶発症)が起こる可能性はあります。

□まれに、脳梗塞,肺梗塞,狭心症,心筋梗塞など主として高齢者に多い血管疾患が偶発的に発症することがあります。いつでも起こりうることが、偶然、入院中、もしくは手術中に発症するものです。手術を直接の原因とするものではありませんが、緊張,血圧の変化,安静などストレスが誘因となっている可能性はあります。診断次第、可能な限り迅速に対処いたします。

 

【その他】

□摘出した前立腺を病理検査に提出します。結果は外来で説明いたします。

□退院後は3か月毎に血液検査でPSAを測定して再発の有無を観察します。

 

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